観光経済新聞社はこのほど、全国の主な旅館約200軒に「受動喫煙対策」に関するアンケート調査を行った。それによると、喫煙ブースや禁煙室の設置など、ほとんどの回答旅館で何らかの対策を行い、施設内全てを禁煙に踏み切った旅館もあった。政府が受動喫煙防止へ、旅館の客室など一部を除き、多くの人が利用する施設を原則禁煙とする罰則付きの健康増進法改正案を国会に提出。東京五輪前の施行を目指している。各自治体も国より強い規制の条例制定に動いており、対策は旅館業界でも待ったなしといえる。
「本年1月から全館禁煙とし、1階ロビーに喫煙室を新設した」という京都市の旅館こうろ。「近年の受動喫煙対策の機運の高まりにより、対策を決意した」と、費用約400万円をかけて設置した。
同館経営者の北原達馬さんは「将来的には喫煙室も撤去し、全面禁煙にしたいと考えている。公共の場で不特定多数の人に選択の余地なく副流煙を吸わせることは公害であり、道徳にも反している。タバコが世の中からなくなり、受動喫煙という言葉が使われなくなる日が来ることを願う」という。
北海道知床ウトロ温泉の北こぶし知床ホテル&リゾートは4年前に第1段階として1フロアを除く全ての階を禁煙に。3年前からは全客室を禁煙とした。喫煙は館内2カ所と館外1カ所に限るが、喫煙者への配慮として広いスペースの喫煙ブースを設置。ソファを置き、タバコを吸いながらゆっくりと過ごしてもらえる「たばこラウンジ」を併設している。
たばこラウンジは以前ギャラリーとして使用していた20平方メートルほどのスペースを改装したもの。客室の禁煙化とパブリックスペース改装のタイミングが合い、設置したという。
「吸い殻や灰で汚れがちな空間だが、清掃回数を増やし、いつでも快適にお休みいただけるよう気を配っている」と同館支配人の鎌田勝利さん。客室の禁煙化については「喫煙者の方たちからの苦言は少々あるが、喜ばれている方の方が多いと思う」と述べる。
「客室、パブリックは禁煙。ロビーに喫煙所を作って対応している」というA旅館は、館内の全面禁煙についても「国際社会の動きがその方向に向かっている」と、検討を進めている。「今後、海外からのお客さまも増え、全面禁煙が当たり前になると思う」ともいう。
対策で多かったのは喫煙ブースの設置だ。B旅館は、禁煙の要望増加を受けて館内に喫煙ブースを設置。館内の全面禁煙も検討中というが、「リピーター、VIPの客離れを考えて」実施に踏み切れない状況だ。喫煙ブースは約30万円の自己負担で設置。100%の補助があればさらなる設置も考えたいという。
館内の一部フロアや一部客室を禁煙とする対応も目立つ。C旅館は、喫煙コーナーを館内3カ所に設置したほか、1フロアを禁煙とした。
ただ、禁煙フロアの希望があっても、「料金がマッチしない」ことや空室がないことで応えられないことがあるという。消臭対応をした客室を提供しているが、「敏感なお客さまは入られてすぐにタバコのにおいがするから部屋を変えてほしいといわれる。ひどいときは3部屋4部屋と変更される。壁のクロス、カーテン、畳、じゅうたん、寝具と全てのものを指摘され、クレーム処理に追われることもある」。館内の全面禁煙が必要という意見も社内であるが、「宴会時の喫煙希望がかなりの頻度である」と、二の足を踏む状況だ。
「食事をする場所は基本、禁煙。近くに喫煙ルームを数カ所設置している」というD旅館。客室も禁煙室を段階的に増やしており、現在は36%が禁煙室だ。今後も増やす予定という。「全面禁煙を行いたいが、宴会など旅館業の特性上、難しい。ただ、将来は可能になるかもしれない」と人々の志向の変化に注目している。
今回の回答で対策を行っていないとする旅館が1軒あった。「予算がない」「宴会等で喫煙希望が多い」ことを理由に挙げている。ただ、「助成金を含めて50万円以内ならやりたい」と、前向きの姿勢だ。行政の補助や低利融資など、旅館における受動喫煙防止対策を促す施策の充実が望まれる。